2018年1月17日水曜日

男性グループ:私自身の体験

私は男性のサポート・グループ「男性塾」を主宰しております。
なぜ、私が男性グループを始めたか、私自身の体験をお話ししたいと思います。

私が一番初めに自分自身の気持ちと向き合うグループワークに参加したのは、20代なかば、精神科医になりたての頃でした。指導教授に勧められ、2泊3日のエンカウンター・グループという合宿に参加しました。
私よりも若い人もいましたが、30代、40代の人もいました。みんな心理関係の仕事をしている人たちで、男女両方いました。
何の予備知識もなく参加しましたが、参加者たちが自分たちの気持ち、特に心の痛みを語り、涙する姿に驚きました。友人の精神科医ヤマト君も一緒に参加して、別々のグループに入ったのですが、夜に「そっちでは何人泣いた?」などとお互いのグループの様子を報告し合いました。正直、そのような参加者のことを馬鹿にしていました。心理の仕事をしていながら、自分たちの方がよっぽど病んでいるじゃないか。
私の順番が回ってきても、私は何も心の痛みなどない。私は強い、、、という具合に強がっていました。すると、ファシリテーターである年配の男性が、私の肩にそっと優しく触れました。その意図がよくわかりませんでした。

二回目の体験は私が40歳、まだ新米の父親の頃でした。イタリア、ローマのMaurizio Andolfiという高名な家族療法家が、毎年夏に2週間のグループワークを主宰していました。世界各地から15名ほどのセラピストたちが集まり、専門家としての自己の話をします。これも、男女ミックスでした。
ここでも私は驚きました。始めはクライエントに向かう専門家としての自分を語るのですが、話が深まるうちに、職業ではなく、個人的な自分自身の体験を語ります。自分の子ども時代のこと、夫婦や家族関係のことなど、辛さや悲しみを語ります。みんな、よっぽど不幸な経歴を持っているんだなぁ。だからセラピストになったのかなぁ。私には語るような傷はないし、幸せなんだなぁと内心考えていました。
最終日に、主宰したMaurizioが自分を語りました。彼はちょうどその時、夫婦関係が破たんして、離婚する直前の時期でした。語りながら、感情に呑み込まれ、泣き崩れました。
私は驚きました。マスターセラピストと呼ばれる偉い先生も、本性がバレてしまった。ああ、彼もこれで崩れてしまったか。彼の専門家としてのキャリアが終焉する場を目撃したのだと思いました。
その晩に、お別れのディナーパーティーがありました。Maurizioは昼間の様子では、夜も欠席するのではないだろうか、と想像していたら、ごく普通に快活な彼に戻り、楽しく振る舞っています。
あれ?
彼は崩れてしまったのではなかったのか?
そこで、私の目からうろこが落ちました。
人は弱みを見せても良いのだ。
むしろ、弱みを恥じず、開示し、それを自分自身で受け入れ、信頼できる人に共感してもらえることが本当の強さに繋がるということを実感しました。

このような自助グループ(self-help group、ないしはconsciousness raising group)は1960年代の女性運動の中から始まりました。お互いに、素の自分を語り合う中で、自分たちの意識を高めていきます。
女性は、感情を扱うことが得意です。
しかし、男性は、感情、特に否定的な気持ちを表すことが苦手です。
男性は、「強さ」をアイデンティティにしています。
自分が強くありたいと願い、体力、学力、経済力などの「よろい」に身をまとい、自分を強く見せようとします。その下にある「弱さ」を隠します。

人は弱いものです。それを認めるからこそ、強くなることができます。
弱さを否認した強さは、独りよがりでしかありません。
Maurizioの姿を見て、そのことに気づき始めました。
ローマでの体験は、私の感性の畑を掘り起こしました。
帰国して2週間ぶりに再会した幼い子どもたちに出迎えられ、彼らを抱きしめ、なぜかわかりませんが、泣き出してしまいました。子どもたちは泣いている父親の姿に驚きました。私自身も自分の感情表出に驚きました。

三回目の体験は、アメリカでの男性グループです。アメリカでは女性グループ活動に触発され、1990年代頃から「男性運動」が盛んになりました。
学会で知り合った男性性(Men's study)を研究している研究者に紹介され、Mankind Projectという男性の集まりに参加しました。週末2泊3日の男性オンリーの合宿です。とても強烈な体験でした。男性たちが集まり、何をするのか初めはとても怖かったのですが、とても安心・安全な環境が作り出され、奥深くまで心を開くことが出来ます。それに耐えきれず、途中でリタイアする人も中にはいました。私は自分自身も気づかなかった心の底に初めて触れて、大きく心が動かされました。それを仲間たちに受け止めてもらいました。私以外はすべてアメリカ人です。言葉の違いを超えて、強い連帯が生まれました。

その後、様々な場で、男性グループを経験してきました。専門家の男性が集まる機会、一般の男性たちのグループなどです。今でも、継続して英語の男性グループを開いています。英語に不自由がなく、男性グループに興味がある方はご連絡ください。ご紹介いたします。

私は、男性としてのアイデンティティを獲得する中で、
泣いてはいけない。弱さを見せてはいけない(否定的な感情の抑圧)
と伝えられ、必死に「強さのよろい」を作ってきました。それが男のプライドです。
鎧があるからこそ、こうやって職業人(医師であり大学教員であり)として、家庭人(夫であり父であり)としてやってこれたのだと思います。
しかし、時にその鎧が重圧となり、自分の心の足かせになってしまうことがあります。
たとえば、「怒り」です。
怒りの感情は、弱さ(恐れ、不安、悲しみなど)を隠し、自分の身を守るための武器です。怒りは相手を蹴散らし、関係性を破壊します。
怒りという鎧を脱ぎ捨て、素の気持ちをそのまま表すことが出来ると、身が軽くなり、どんなに楽になるかということを体験しました。
それとともに、苦労して作り上げてきた「よろい」を脱ぐことがどれほど怖いかということも経験しました。

普段の臨床で、家族の問題、夫婦関係の問題、個人(男性・女性を問わず)の問題など、多くの人たちの悩みや苦しみに触れています。
男性である私自身の視点からすると、それらの解決のカギを握るのが、「男性」です。
男が如何に変わることが出来るか。
無理に変えようとすると、傷つきます。
自分自身が安心して、鎧を脱ぎ、見せかけではない真の男性性・人間性を回復する場を作りたい。
そのような願いから、男性グループを主宰しています。

2018年1月1日月曜日

今年の診療方針・活動方針

新年を迎えました。

2011年の6月に田村毅研究室を東京西麻布の地に開設してから、今年で7年となります。
開業するまでは、公務員として大学に勤めていたので、経営の経験など全くなく、健康保険も、薬も使わない自由診療が、果たして成り立つのか、なんの根拠もありませんでした。
なんとか7年間ここまで続けられてきたのも、みなさんのご支援のおかげです。どうもありがとうございます。

一年の計は元旦にあり。
気持ちをリフレッシュして、今年もみなさまのお役に立てるよう、努力してまいりたいと思います。

ここで、改めて、私の診療方針と、今年の活動方針についてお伝えしたいと思います。

<診療方針>
『人」の力で問題を解決します。
心の問題や苦しみ・悩みのほとんどは、人との関係性の中から生まれてきます(非機能的な関係性)。大切な人から傷つけられたり、裏切られたり、失ったり。
したがって、大切な人との関係性を回復することにより、人々は苦しみから解放されます。
  • 人と関わる力を回復して、社会(学校や会社)の中に安心できる居場所を得ます。
  • 人と関わる元気の素は家族から育みます。親との関係、子どもとの関係、夫婦間の関係、きょうだいとの関係、祖父母世代などなど、安心できる関係を回復します。
  • それを支援する私が触媒になります。よくお話を伺い、十分な信頼関係を作ります。
「病名」は使いません。

  • 医学的・科学的に明確に診断できる場合を除いて、病名は使いません。特に使わなくても、問題は解決します。
  • うつ病、発達障害、アスペルガー障害、パーソナリティ障害などなど、多くの精神疾患には客観的なエビデンスが乏しく、操作的診断基準による仮説です。
  • 病名が必要な場合もあります。普通の人には起こらないこんなことが、なぜ起きているのか、本人が、家族が、専門家が理解する枠組みを得ます。このような場合は、その病名を尊重します。
  • 病名が元気を奪う場合もあります。偏見の対象になったり、自信を失うなどです。このような場合は、その病名から解放します。
  • 多くの精神科医やカウンセラーなどの心の専門家は、医学・生物学的な視点から心の問題を理解しようとします。つまり、身体の中の異常、とりわけ脳神経系になんらかの問題が生じているとアセスメントします。この場合は、正確な医学的診断が必要となります。
  • 私は、医学・生物学を含めた生物・心理・社会モデル(Bio-Psycho-Social Model)という広い視点からアセスメントします。医学的診断(病名)は相対的なひとつの指標として、解決のためのツールとして用います。

「薬」の力は借りません。

  • 「人の力」を有効に使うことができれば、「薬の力」は必要ありません。
  • 通常の保険診療では「病名」と「薬の処方」がどうしても必要になります。
  • 私の自由診療では、薬は必要ありません。その代わり、相手と向き合い、さらに自分自身と向き合い、深い会話が必要となります。

<今年の活動方針>
・家族の力を賦活する
精神科領域では、問題を持つ当事者が治療に消極的で会えない場合が少なくありません。本人が不在でも、家族が元気を回復することで、本人も元気になります。

・グループの力を活用する
「ひきこもり脱出講座&交流会」、「男性のサポートグループ」など、なんでも話し合える仲間を得ることで、みなさん元気を回復されていきます。このような機会を増やします。

・支援者の支援
本人を支援する家族、本人と家族を支援する支援者・専門家(教師、カウンセラー、医療者など)も、どう支援したら良いか戸惑います。専門家へのスーパーヴィジョンで、そのような人々に指針を与えます。

・学会・執筆活動
国内外の学会に参加して、後進の指導に当たります。
特に、海外のアジア地域の専門家たちとの連携を深めます。
これまで積み重ねてきた経験を、本として出版します。

本年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。