2017年5月18日木曜日

ひとり親家族の子育てのコツ

3組に1組の夫婦が離婚する時代です。
「ひとり親」家族はたくさんいます。
しかし、残念ながら「ひとり親」のイメージは昔と変わらずあまり良くありません。
子どもが問題を起こすと、学校の先生や世間の人たちは、
「あの子はひとり親だから、、、」
と口に出して言わなくとも、内心そう思われたりします。
、、、経済的に困難でしょ。
、、、子どもの面倒を十分にみれないでしょ。
、、、離婚するような親はもともと、、、
といった具合です。

確かにひとり親、とくに母親と子どもの家庭は稼ぎ手が不在で、経済的に困難な場合が少なくありません。しかし、ここではひとり親と貧困の問題を分けて考えます。
親がふたりいても経済の困難を抱えている家族もいるし、ひとり親でも経済的な面ではOKな家庭もたくさんいます。詳しくは、一番下の<付記>欄を参照してください。

ひとり親であること自体は全く問題ではありません。
不登校やひきこもりなどの問題行動が、ひとり親に起きやすいということはありません。ふたり親でも、ひとり親でも、そのような問題は平等に発生します。
しかし、ひとり親家族に起きやすい問題があることも事実です。
何が問題なのでしょうか?
一言でいえば、親が元気をなくしている場合です。

★死別した場合、
親がそのショックと悲しみを乗り越えられないと、元気をなくします。
英子さん(仮名)は子どものことを相談するためにカウンセリングにやってきました。
しかし、話を深めていくと、いつも亡くした夫の話になり、悲しみの涙があふれてきます。子どもに向き合おうとすると、英子さん自身の悲しみに遭遇してしまいます。それが嫌で、英子さんは心から子どもに向き合うことができませんでした。
★離別した場合、
子どもに対する罪悪感。済まないという思いが、親の元気を削いでしまいます。
、、、親たちの勝手な都合で、子どもから親を奪ってしまった。
、、、働かなくてはならないから、子どもとの時間が十分にとれず、寂しい思いをさせてしまった。
そのような罪悪感が親としてのエネルギーを消耗させ、子どもに胸を張って強く関わることができません。つい甘く、過保護になりがちです。

本来ふたりいるはずの親がひとりになれば、家族のバランスは崩れます。しかし、新たなバランスを得ることができれば、全く問題なく親として機能できます。具体的には、どのようなことに心がけたらよいのでしょうか。
ひとり親の子育てのコツをまとめました。

1.親自身の気持ちを整理する
 死別した場合、喪失の悲しみがいつまでも長く続きます。特に自死で亡くした場合の負担は大きいです。悲しみに加えて、裏切られた怒りや、助けられなかった罪悪感などの辛い気持ちが重くのしかかります。
 離別するプロセスはとても辛いものです。別れるべきか、やりなおすべきか心の中で迷ったり、ふたりの間で合意できない場合、あるいは財産や親権で決着がつかない場合もあります。離婚した後も、元パートナーへの怒りや未練、その人を選んでしまった自分を責めたりします。
 このような気持ちを隠していたら、いつまでたっても心に残ります。秘密が守られ、否定や批判されず理解してくれる人に、その気持ちを何度も繰り返して語ります。話しても過去の記憶は消えませんが、そこにまつわる辛い気持ちを軽くすることができます。

2.罪悪感・自責感から決別する
はずかしい、子どもに申し訳ないというマイナスの気持ちを整理して、消化しましょう。
ひと昔前の時代は、離婚すること自体が社会のタブーでしたが、今は違います。
子どもたちは、親が思うほど離婚を気にしていません。
親は子どものために離婚を踏みとどまり、
子どもは親のために、「早く別れなよ」と言ったりします。
子どもに必要なものは温かい家庭と、良質な愛情です。それが十分に与えられれば、ふたりでもひとりでも構いません。
親が元気をなくし、悲しんだり辛い思いをしている姿を子どもに見せて、子どもに「お父さん・お母さんは大丈夫だろうか?」と心配させることが良くありません。

3.サポートを受けよう
子育てはひとりだけではできません。煮詰まってしまいます。
遠慮せず、あらゆる資源を活用しましょう。
祖父母やきょうだいの支援を得ます。もし、そこにシコリが挟まっているようなら、それを整理してください。
社会にはひとり親に対するさまざまな支援策が(まだまだ十分とは言えませんが)整いつつあります。恥ずかしがることはありません。堂々と申し込みましょう。
子どもの学校の先生にも隠すことはありません。学校は、家庭調査票などを通じて家族の情報を得ようとします。ひとり親であることを恥じずに伝えることが出来れば、先生は、
この親は教師・学校を信頼してくれているな。親はちゃんと困難を乗り越え、元気でいるな、と肯定的に評価してくれます。
こそこそ隠していたり、家族の状況を伝えられないと、この親はまだこだわって乗り越えられていないのだろうと、周りの人は否定的に受け止めます。

4.不在の親の肯定的なイメージを与えよう
両親が不仲であろうが、離れていようが、親は自分の命を授けてくれた大切な人です。自分の由来を肯定することで、自分自身を肯定できます。特に思春期に入り、自分とはなんだろうと、自分探し、つまり自我同一性(アイデンティティ)を形成するときに親に良いイメージを持てることが大切です。
性的アイデンティティ、つまり自分はどんな男性に・女性になるんだろうと迷うときに、同性の親がモデルとなります。息子では父親が、娘では母親がモデルです。

別れて住んでいる親との面会交流は大切です。
パートナーとしては失格であっても、子どもの親としてそこそこOKであれば、積極的に交流する機会を作りましょう。一緒に住んでいない親からも、見守られ、愛されているという実感は子どもにとって大切です。
その機会を子どもに与えるために必要な両親間の連絡は積極的にとります。

すでに十分おわかりのことだと思いますが、親が元パートナーを否定したり悪口を言ってはいけません。子どももその親を憎み、否定的に捉えてしまいます。

死別、あるいは事情があって面会交流ができない場合
別れたパートナーについて親が何も言わず、子どもが知らされていないと、子どもはイメージを作ることが出来ません。
しかし、親が別れたパートナーを肯定的に語ることは困難です。語ろうとすると涙があふれてきたリ、離婚する前のイヤな思い出がどうしても出てきます。子どもがいなければ、辛い気持ちを心の冷凍庫に凍結保存する選択肢もありますが、冷凍食品は消えることなくそのまま次の世代に受け継がれてしまいます。その負の遺産を持ち越してはいけません。
お母さんはまだお父さんのことを口にできないほど憎んでいるのだろう、怒っているのだろう。一般に、知らされていない情報は、否定的に捉えられてしまいます。
 実物の親とは会えなくても、子どもたちの心の中に肯定的な不在親のイメージがあることが大切です。
 否定するのではなく、何も言わないのでもなく、積極的に別れたパートナーの肯定的なストーリーを子どもに聞かせてあげましょう。
 特に、思春期の子どもは、これから自分がどのような大人になれるのかとても不安です。もしかしたら、自分も親のように「悪い人」になってしまうのだろうかと心配します。親が「良い人」であれば、自分も「良い大人」になる可能性が出現します。

 太郎さんはアルコールで何度も失敗して、朝起きれず、仕事ができなくなりました。病院でうつ病の薬をもらいましたが、一向に良くなりません。知り合いに紹介されて、私のカウンセリングにやってきました。始めのうちは、なかなか自分のことを話せません。話し出すと、父親に対する怒りが噴き出し、自分の気持ちの収拾がつかなくなることが怖かったのです。
 やがて、カウンセリングに慣れてくると、少しずつ父親を語り始めました。いつもお酒を飲んで大声で怒鳴り、母親に手を挙げていました。今でいえばDVです。酒で失敗しては仕事をクビになり、何度も転職を繰り返していました。太郎さんが幼いころ両親は離婚して、以来父親とは会っていません。太郎さん自身は父親の記憶はあまりなく、母親から聞いた悪い話ばかりです。私は太郎さんの話を丁寧に受け止めました。さんざん父親の悪い部分を語りつくした後に、良い話が飛び出しました。パンドラの箱のように。
 まわりに迷惑をかけ、どうしようもない父親でしたが、太郎さんが生まれたときは、子どものようにはしゃぎ、とても喜んだという母親の話を思い出しました。太郎さんは父親から祝福されて生まれてきたのです。あまりにも問題の多い父親だったので、そのことをすっかり忘れていました。
 太郎さんはここまで自分の父親のことを語り尽すことができて、とてもすっきり、おだやかな気持ちになりました。
 その後、太郎さんはアルコールで失敗する機会も少なくなり、新しい仕事では職場の雰囲気も良く、無事に社会に復帰してゆきました。
若者が自分を肯定して、前に進んでいくためには、自分の命の由来である親の肯定的な物語が必要です。
 子どもの近くにいる親は、胸を張って前を向いている姿を子どもに見せてあげて下さい。
 そして、子どもから離れている(亡くなっている)親の肯定的な物語を子どもに与えて下さい。

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(付記)
多問題家族、あるいは機能不全家族という呼び方があります。
家庭の中に、失業、身体や心の病気・障害、家族不仲、浮気、暴力・虐待、ネグレクト、犯罪行為、アルコールや薬物依存など複数の問題を抱えています。その根底には貧困問題があり、社会を信頼せず、まわりからの支援にも背を向けています。
 そのような家族では、たくさん抱えている問題のひとつとして離婚もあります。この場合は、離婚だけを取り上げても解決しません。総合的・包括的な支援が必要であり、それはとても困難です。
 今の世の中の多くの離婚家族はこの範疇には入りません。ここで取り上げるのは、たまたま両親が離婚していますが、それ以外は大きな問題もなく、普通の生活をしている家族です。

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