2016年8月15日月曜日

2016年度グループ・スーパーヴィジョン 夏合宿

草津温泉にある私の別荘で、支援者たち7名と二泊三日の夏合宿をやってきました。
これが、事前にお渡しした案内です。
 支援対象を語るためには、まず、自分自身を語れなければならないということは、誰でも理屈では理解できるものの、実際にはなかなかその機会を得ることができない。自分一人でできないこともないが、スーパーヴァイザーなど信頼できる他者と共に行うことが望ましい。
 我々は支援者としてクライエントの人生体験を理解し、その心理に共感する時に、自分自身の過去・現在の生活体験と、そこに含まれた感情体験を無意識のうちに参照している。それは意識しないだけであり、実際は様々な表現方法で自己を語っているはずなのだが、多くの場合そのことに気づいていない。夏合宿では、安全な場で改めて自己を語り直すことを目的とする。それは自己と向き合い、新たな発見と認知されるであろうが、実は、普段気づかずに表現している程度にとどまり、それを超えて新しい何かがつけ加わるわけではない。
 このようなトレーニングは心理療法の各派で行われている。ロジャースなどの人間学派ではエンカウンター・グループやフォーカシングで、精神分析では教育分析で自己の転移感情に気づく。私は「関係性」をテーマにしたシステムズ・アプローチに準拠しているので、自己との向き合い方は、家族内や家族外(社会)における過去および現在の関係性と、そこに埋め込まれた自己を見出すという手法になる。
人生には当然、山あり谷あり。
山(positive)の部分は表に出して、谷(negative)の部分は隠して生きています。
通常はそれでまったく問題なく、谷にわざわざ注目せずとも人生を全うできます。しかしし、時に深い谷にはまって前に進めなくなり、様々な問題を生じます。その人たちを救い出そうとする心の支援者は、谷の部分の探索の仕方を習得していなければなりません。

そのために、まず自分の人生の谷を訪ねます。そこに近づくと悲しみ、不安、怒りといった痛みを感じるので、通常は隠して自分でも見ないようにしています。なんとなくわかってはいるのですが、あえて注目したり深く考えようとはしません。他者にも隠し、恥の部分となり、自尊心や自信を奪います。立ち入り禁止部分が大きくなると、支援者としての活動にも制限が加わり、やりにくくなります。

語らない物語は、その人だけが隠し持つ、見てはいけない、不可解で、特殊な物語です。そこに立ち入ると混乱して不安になります。
それを語るためには、まず不安の除去が必要です。相手が受け取ってくれるだろうという期待の元で、勇気を出して語ります。語りが進むと、それまで切り離しておいた感情もよみがえり、痛い思いをします。
それに耐え、感情をうまく語り得ることができれば、その部分は他者によって承認された、隠す必要のない、他者か理解しうるし、他の人にもあるかもしれない一般的な物語になります。それを与えるのが、支援者としての「愛」です。
たとえ語ったとしても、谷は谷であることには変わりがなく実在し続けるのですが、立ち入り禁止ではなく、自由に訪ねることができる谷になります。もはや隠す必要はなく、自尊心を奪うこともなくなります。
そのような自己体験を経ると、心の臨床において、他者の谷にも安全に分け入ることを支援できるようになります。

この体験は、プロの支援者でいる限り、何度も繰り返して行わなければなりません。
心の支援者とかカウンセラーではない、一般の人はやらなくても良いです。(本当はやったほうが良いのだけど、、、)
問題を抱えていたクライエントは、問題が解決すれば、もうやらなくても良いでしょう。
しかし、支援者はずっとやり続けます。
私の谷も、30代、40代、50代と、語り直す度に新たな意味が付与され、物語が変化して行きます。常にup to dateな自分の物語を持っているようにします。

今回の参加者たちは、みな自分の谷に分け入る勇気を持った人たちでした。私の役目は安全な環境を提供するだけです。周到な場さえ用意されれば、自然と深めることができます。

広尾のオフィスで展開してもいいのですが、合宿ではよりやりやすくなります。都会の喧騒から離れ、涼しい高原の屋外でやりました。静寂とプライバシーが確保され、3日連続の忙しさに区切られないゆっくりとした時間の流れの中で、語りが促されます。

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参加者からのメッセージです。

参加者A
セミナー、大変お世話になりました。
ジェノグラムを初めてキチンと描いたことで、あらためて自分の家族を見つめなおす良いきっかけになりました。
ブログも見させていただき、改めて自分の中で何が起こったのか考えています。
合宿では自分でも思いがけない言葉が飛び出し、びっくりしたと同時に、やはり戸惑っています。
人生観が変わると言うのは大げさかもしれませんが、それぐらい大きな変化が自分の中に生じた気がしています。
でも、まだうまく消化できていません。また誰かに聞いてもらいながら、深めたほうがいいのでしょうね。

参加者B
がっつり家族をテーマに据えた内容で、自分にとってはかなりエネルギーを要する内容だった。しかし思った以上に話すことが出来、とても良い経験になった。自信にも繋がる。
前に同じテーマで話したとしたら、恐らくもっと話せなかっただろうし、もっと防衛的に話していただろうな、と思う。

今まで掘り下げてきたお陰もあり、また先生を含め参加者の皆さんに支えられてのことでもある。貴重な機会だった。