2013年7月21日日曜日

アルコール依存

過度な飲酒は心身の障害だけではなく、飲酒運転による事故、暴力、警察保護、身内への虐待や経済困窮、休職、失職などなど、社会的に大変な悪影響を与えることを考えると、タバコを規制するなら飲酒もやったほうがいいだろうと思うのですが?

いや、お酒を規制すれば済むといった単純な話でもないんですよ。それを説明するにはまず依存とは何かというは話から始めなくてはなりません。

依存症とは、始めは楽しんでやっていたのにだんだんはまり込んでしまい、どんどん過度になって量が増え、止めようと思っても止められなくなり、困った状態になることです。そう考えればアルコールだけでなく様々な種類があります。

  1. 第一にモノに依存する場合です。アルコールや煙草(タバコ)が一般的ですが、覚せい剤、麻薬などの違法薬物。あるいは睡眠薬、精神安定剤、鎮痛剤などもあります。
  2. 第二が特定の行動に依存する場合です。パチンコ、麻雀、競馬といったギャンブルが思い浮かびますが、買い物が止まらないとか、食べること(過食や拒食などの食行動の異常)、仕事への中毒もあります。人間関係の依存、たとえば恋愛とかセックス依存とか、二者間で両方依存し合っていれば共依存という状況にもなります。最近では、インターネット依存やネットゲーム依存なども問題になっていますね。

 これらは、少量なら問題ないというか、むしろ有益です。お酒も少量なら気持ちをリラックスさせて緊張と疲れを癒してくれ健康にも問題はありません。睡眠薬や安定剤も、「薬は飲みたくない!」という人も多いのですが、少量であれば健康に全く問題ありません。恋愛やセックスや仕事はまさに必要なこと、好ましいことなわけです。(ただしタバコ、覚せい剤、麻薬などは少量でもダメですけど)

 問題は、これが度を越してしまう場合です。いずれもやっていて楽しい、気持ちがすっきりするといった効果があるので、もっとやりたいと、だんだん量が増えていきます。はじめのころは少量でも「楽しい!」と効果があったのですが、耐性ができると量を増やさなければ当初の「楽しい!」感覚を得られなくなります。そうやって、自分で量をコントロールできなくなってしまいます。
 依存には二種類あります。身体的な依存とはそれをやめると不快で苦痛な離脱症状を起こします。たとえばアルコールを飲まないと幻覚が見えたり手が震えたりします。心理的な依存とは、それをやめるとイライラ、不安、パニックなど気持ちが苦しく不安定になります。そういう身体と心の不安定さを避けるためにどんどんやってしまい、悪循環にはまってしまいます。

 すると、さまざまな障害が生まれます。
 まず、身体が蝕まれますね。アルコールでは肝臓がやられて肝硬変になったり、高血圧や脳卒中などなど、さまざまな生活習慣病(以前は成人病と呼ばれていましたが)になり、病気のデパート状態になります。
 そして、社会生活が蝕まれます。仕事や学業などの支障をきたして失業や退学に陥り、お金がなくなり、どうしても得るために悪いことをしてしまったり。
 家庭生活へも影響を及ぼします。よくACと言われますが、もともとはアルコール依存症の親を持つために子どもが大きくなってもその悪影響が残ってしまった状態ACOA (Adult Children of Alcoholics)が短くなってACと呼ばれるようになりました。
 アル中の父親(あるいは母親)のために家庭がうまく立ち行かなくなってしまいます。(子ども時代に家族が機能不全だった人:Adult Children of Dysfunctional Family)。

 私は子ども頃、スポーツ根性物語のはしりだった「巨人の星」をアニメでよく見ていましたが、今から思えば星飛雄馬は、自分の果たせなかった夢を託され、飲んだくれてちゃぶ台返しをする父親(星一徹)に育てられたACだったとも言えます。一応、巨人軍には入ったけど、大きくなってからいろいろ悩みますから。

私の祖父も朝から酒を飲んでました。飲酒量からすれば完全なアルコール依存症だったけど、社会生活、家庭生活は一応帳尻がついていたし、だれも「アル中」とは思いませんでした。結局、ガンで早くに亡くなりました。

では、なぜ依存症になるのでしょうか?
いくつかの説があります。

  1. 一番わかりやすいのが、好きだから、楽しいからという説。これを条件付けモデルと言って、物質がもたらす快感や楽しみが脳に報酬をもたらすということです。たしかにそうなんですけど、それだけで依存症になるとも限りません。ちなみに、私もお酒は大好きですが依存症ではありません。もっとも、依存症の人は自分が依存症とは思っていない場合が多いです(病識の欠如)。
  2. 二番目が生物学的モデル。つまり、依存症になる遺伝子とか、心理的脆弱性、感情の調節不全、精神障害などを抱えた人が依存症になるという説です。統合失調症の人はすごく煙草を吸います。これは、ニコチンが幻覚・妄想などの精神症状を抑える効果があるためと言われています。
  3. 三番目が自己治癒仮説というものです。依存する根底にはトラウマやストレス、失敗、悲しみ・苦しみ・怒りなどとても辛い感情体験があり、その心理的苦痛から逃れ、生き延びるために何かに依存しているという考え方です。どの物質・行動を選択するかはその人の好みで個人差があります。

 どれもある程度納得のいく説ですが、私は三番目の仮説が根底にあって、たまたま身近にあった自分の好きなもの(一番目の仮説)にとりつくのだろうと思っています。

 つまり、「説明困難な苦痛」を「説明可能な苦痛」に置き換えて耐えがたい人生を生き延びているということになります。それに関連したものが自傷行為と反復強迫です。
 たとえばリストカット。自殺企図とも微妙に異なり、死にたいわけではないけど自分を傷つけたいという心理が働きます。これも、自分で説明可能な痛みを植え付けることにより、自分の力ではどうしようもできない苦痛から意識を逸らすのだろうという説があります。
 反復強迫とはトラウマとなった苦痛をわざと繰り返すという理解しがたい現象です。たとえば親から虐待を受けた人が暴力は絶対反対と考えながらも自分の子どもを虐待してしまうという世代間伝達。幼い頃、性的な虐待を受けた女性が風俗で働くとか。あるいは、映画「ディアハンター」のロシアンルーレットもその例です。ベトナム戦争で捕虜になり、ロシアンルーレット(交互に弾がひとつだけ入ったピストルを自分のアタマに向け引き金を引く)をやらされた人が、戦後の荒廃した盛り場の地下でロシアンルーレットを繰り返して金儲けするという話です。こうやって、自らを傷つけることにより、過去の圧倒的なトラウマから逃れようとしているわけです。なかなか想像を絶する現象ですが。

というわけで、冒頭のご質問に戻りましょう。
お酒やタバコを規制して社会から取り去れば、一見、その依存症はなくなるように見えます。しかし、根本は解決されないままです。むしろ、依存しなければやっていけない慢性的で目に見えない困難な状況をどうやって取り去るかということが大切です。でも、それは本当に骨の折れる、大変な作業だと思います。
不可能でしょうかね?
不可能だと思うから依存症に走るわけですけど。
もしかして可能でしょうか?
そう思えたら、どうぞ精神科医のところにいらしてください。

厚労省関連のサイトを見てみると、団塊問題も手伝って、定年退職後に依存症になるケースが多くなってきたとありましたが、やはり男性にとって定年退職は相当大きな岐路なんでしょうね?

いや、そういう人たちは退職前から依存症だったけど誰も気づかなかっただけなんです。
そう、依存症話からお酒に限らず自分が依存症であることに気づかない、というか否認している場合が多いんです。
オレは毎日飲んでるけどいつだってその気になったらやめられる!、、って。
退職前は仕事仲間と飲んでいたからそれが当たり前になっていて誰も問題にしなかったけど、退職後は飲み仲間がいなくなり家で飲むようになり、奥さんがダンナさんの依存症を発見するんじゃないかと思っています。もちろん退職による生きがいの喪失と居場所を失い、家にずっといることがストレスとも考えられますが。だとしたら、退職前は仕事依存症だったのかもしれません。その方が会社にとっては一見好都合なのですが。

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