2013年4月6日土曜日

Counseling 2.0


Web 2.0とは、メディア関連の実業家であるTim O'Reillyが2005年ごろ提唱した概念で、従来の送り手から受け手への一方的な流れであった状態(Web 1.0)が、送り手と受け手が流動化し誰もがウェブを通して情報を発信できるように変化した仕組みのことだ。今までの消費者(情報の受け手)が書き手(情報の発信源)になったもので、たとえばGoogle(ロボット型の検索エンジン)、Wikipedia、Facebook, ブログ、ツイッターなどが該当する。

先日のNHKクローズアップ現代でGovernment 2.0(ガバメント2.0)という概念が紹介されていた。同じティムオライリー氏の提唱で、市民がネットを通じて政治や行政に関わる仕組みだ。

市民と政府の関係を根本的に再編し、政府は自らサービスを提供するだけでなく、民間がさまざまなサービスを開発して提供するためのメカニズムそのものを提供するようになったら? つまり、政府がプラットフォームになったら、どういうことが可能になるだろう?」(ティム・オライリー)

番組を見ながら考えた。
Web 2.0やGov 2.0があるのなら、その延長上にCounseling 2.0があっても良いじゃないか!
これは、私が20年来、試行錯誤してきた実践をよく説明してくれる。

Counseling 2.0の特徴は次の通り。
  • ネットを活用する。
  • 送り手と受け手が流動的で、一方向的ではなく双方向的である。
  • だれもが送り手としても、受け手としても参加できる。

従来のカウンセリング(Counseling 1.0 )と発想が全く異なる。

Counseling 1.0) カウンセラーとクライエントが二極化している。
 カウンセラー(セラピスト)は専門家たるべき。その知識と技能をしっかり持っていて、仕事として対価を得る。
 クライエントは悩みや問題を抱えた消費者である。問題や悩みを抱え、どうしてよいか自分ではわからず、他者の救いが必要とする。

Counseling 2.0)カウンセラーとクライエントが流動的である。
 人はだれでもカウンセラー(支援者)であり、クライエント(当事者)の両方を持っている。当事者性を持つからこそ支援者性を発揮でき、支援者である動機づけの背後には必ず当事者性が含まれている。
 人はだれでも当事者性、つまり人生の生きづらさ、障害、否定的な体験を持っている。それをどうにか辻褄を合わせ、なんとか幸せに生きる力(レジリエンス)を持っている。しかし、それが破たんすることは往々にある。そういう時は、さまざまな形で他者からの支援を必要とする。自分が気づく以上に人は頻繁に傷つくものであり、支援も必要とする。その事実から逃げ、自分ひとりで頑張ろうと強がっているだけだ。

  • 人は、人との関わりの中で傷つき、問題や悩みが生じる。
  • 人は、人との関わりの中で救われ、心を癒すことができる。
 人はだれでも支援者性、つまり他者と関わり悩む人を救う可能性を持っている。有用な情報やアドバイスを提供する場合もあるが、それがなくとも相手に寄り添い、その存在を認めることにより人は安心感を回復し、自ら前に進む勇気を獲得できる。

 人と関わることは救いにもなるし、傷つける可能性もある。

1.0) 支援者は専門家としての自覚を持ち、クライエントを守り、傷つけない責任を負う。そのために秘密を守り、支援方法についての専門性の獲得・維持確保(トレーニング)を怠らない。
 相手を傷つけず、有効性を保証する責任性は支援者が負う。

2.0) 支援する人はもちろん研さん努力は必要だが、どんなにやったって傷つけないという保証はない。実際の現場では、有資格者なのに無自覚に相手を傷つけている場合がよく見られ、そのことは密室に葬られ公にされにくい。
 相手を傷つけず、有効性を保証する責任性を支援者ばかりでなく、他のプラットフォームに分散できないだろうか。
 たとえば、メール相談におけるシェアリング。返信文を送信する前に、組織内で読み合い確認する作業。相手に返すメッセージは必然的に玉石混交である。多くは相手を支援する「玉」であっても、どうしても意図せずに相手を傷つける「石」が混じりこんでしまう。それをフィルターにかける仕組み(プラットフォーム)をメディアの中に構築できるかもしれない。

1.0) あくまで現実世界の中での活動である。対面(面談)で行い、電話やネットなどのメディアを介した支援は考えにくい。というか邪道と考える。

2.0) ネットなどの仮想世界で活動できる。だれもが当事者・支援者として広く参加すると良い。

1.0) マンツーマンの深く、丁寧な支援を行う。物質的な支援に対応する。たとえば、
  • 薬や手術などの医学的治療
  • 身体的ケア(デイサービス、身体介護など)
  • 暴力・危険からの保護(DV、児童虐待など)
  • 経済的支援(生活保護、ライフプランニングなど)
  • 就労支援(ハローワーク)
  • 現実との接点(SST、デイケアなど)

2.0) メディアを介するので上記の物質的支援はできない。
情報不足、自信喪失、孤立、社会的偏見・差別、過去のトラウマなどによる心理レベルでの支援に有効である。
たとえば生きる悩み・自殺念慮、若者のモヤモヤ、子育て不安、高齢者の孤独、虐待、アダルトチルドレンなどトラウマの後遺症(PTSD)、依存症(アルコール依存症、禁煙プログラム)、社会的マイノリティー(LGBT、在日)など。
基本的に本人の気の持ちようで、前向きになることで問題解決する可能性を秘めており、そのプロセスを他者が横から支え、心理的にエンパワーするイメージである。


この発想に至る私の経験
・いのちの電話、英国Samaritans)自殺予防の市民活動。研修を受けた一般市民がBefriending、つまり心理学的専門性ではなく、受容・共感をメインにした交流により隣人ポジションから心の危機を回避する実践。アクセスのしやすさ、孤独を回避できるという効果がある一方で、相談員の育成や当事者性が高い支援者へのケアが課題だ。
・NHK「35歳」)20年前のNHKの番組で35歳世代を集めたネットとテレビのメディアミックスの駆け出し。当時はインターネットではなく、Nifty-Serveのフォーラムを利用した。数十名のグループの凝集性の高さ、共感性を感じ、一歩間違えばすごい嵐も体験した。
・癒しのML)インターネットのメーリングリストを利用した自助グループ。「癒されるニーズがある人たち」が集まり、高い共感性と癒しの可能性とともに、いったんこじれたら嵐の悪循環にはまり、管理できずに挫折した。その中で出会った人とはその後もごく少数であるが関係が続いている。当事者が秘める高い共感性と危険性を実感した。
・NHKひきこもりサポートキャンペーン、東京都ひきこもりサポートネット東京都若者総合相談(・э・)/ 若ナビ)公的機関としてメディア(電話とメール)を活用した支援活動。相談員の専門性の高さに依存せず、チームとして複数の人が関与(シェアリング)することにより、高い信頼性・有効性を担保した。


今後の可能性
多様なメディアへの対応
据え置き型としては茶の間に一台の家デン、デスクトップ型PC。携帯型としてはポケベルから始まり二つ折りガラゲー、スマフォ、さらにタブレット端末へと進化している。これらに対応できるプラットフォームが求められる。

ネット上の新たなプラットフォームの提案
一案として、
・短い文章のやり取り(Twitterの140文字でもかなりの内容を伝えられる)
・即答性:電話や面談のようなリアルタイムにできるだけ近づける。電子メールベースで3日も4日もかかっていてはダメ。
・安全性・信頼性。どうやって質の高い支援ができるか。有効な支えとなるメッセージを増やし、傷つける可能性のあるメッセージを少なくするか。
・支援者の質の向上とともに、だれもが支援者性を発揮できるようなシステムが作れないか。そのためには質の高い支援者を限定するより、質の高いやり取りを横から見守るフィルター機能を充実させるのが良い。
・母体となる組織をどこにおくか。ネットの中で完結した組織だと「2チャンネル」のような怪しい活動になってしまう。母体組織は現実社会での信頼性がなければならない。私のこれまでの経験は市民活動、公共機関、行政機関などであった。今後、どのようなカタチが好ましいのか。

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